【わかりやすく解説】GIGAスクール構想とは?概要から実施背景まで徹底解説!

2022年12月10日

全国の児童・生徒に1人1台のコンピューターと高速ネットワークを整備する文部科学省の「GIGA スクール構想」は、新型コロナウイルスのパンデミックの影響でオンラインによる授業や学習の必要性が高まったことからスケジュールが前倒しされました。2022年3月時点で多くの小中学校で端末の導入が完了しています。

児童・生徒に1人1台のコンピューターと高速ネットワーク環境が整備されたことで、子どもたちの学びや学校の教育体制は、どのように変化していくのでしょうか。

GIGAスクール構想とは

「GIGAスクール構想」とは、全国の小中学校の児童・生徒に1人1台のパソコンやタブレット端末などのコンピューターを配備すると同時に、高速大容量の通信ネットワーク整備などを進めていく文部科学省の政策で、2019年12月に発表されました。構想の名称にある「GIGA」とは「Global and Innovation Gateway for All」の頭文字で、「すべての子どもたちにとって、グローバル人材や革新を起こす人材になるための環境を整える」という意味があります。

この政策は、教育現場におけるICT環境を充実させることで、日本の教育現場が強みとしてきた教育実践と最先端のテクノロジーとを組み合わせていく狙いがあります。こうした新しいかたちの教育を小中学校で実践していくことで、多様な資質や能力を持った子どもたちを誰一人として取り残すことなく、一人ひとりに個別最適化された教育の機会を公正・公平にもたらし資質・能力が一層確実に育成することを目標にしています。

GIGAスクール構想の背景

政府が「GIGAスクール構想」を推進した背景として、日本の教育現場におけるICT環境の整備の遅れが挙げられていました。教育用コンピューター1台当たりの児童・生徒数は、2018年の時点で全国平均5.6人に至っており、整備状況の地域差も開いていました。また、学校の授業におけるデジタル機器の使用時間は、OECD加盟国34カ国で2018年時点で最下位でした。こうした状況は教育の地域間格差の拡大や、日本の人材の国際競争力の低下につながりかねません。

その上、仮想空間と現実空間とを高度に融合させたシステムを経済発展と社会的課題の解決につなげるべく政府が提唱している「Society 5.0」と呼ばれる未来社会において、強みを発揮できる人材を育てていく必要性も指摘されています。

そこでICTの活用により教育の水準を高め、教育現場の強みを最大限に引き出せる環境をつくるべく、全国の児童・生徒に1人1台のコンピューターと高速ネットワークを整備するプロジェクトとして「GIGAスクール構想」が推進されることになりました。

GIGAスクール構想で期待される効果

「GIGAスクール構想」によって期待される効果は、ハードウェア環境の整備だけではありません。生徒・児童の学習方法や、先生による指導の方法も大きく変わることになります。

これまでの黒板などを用いた一斉授業では、児童・生徒が一人ひとりの学習レベルや理解度に合わせて学ぶことは困難でした。また、手を挙げて発表することが苦手な生徒は、自分の意見やアイデアを発信することが難しい場面も少なくありません。こうした状況が、児童・生徒が1人1台の端末を持つことで大きく変わります。

 

児童・生徒が1人1台の端末を持つようになると、先生が子どもたち一人ひとりの反応を踏まえた双方向型の授業を実施しやすくなります。デジタル教材の利用によって個人の学習履歴を記録・参照できるようになることから、一人ひとりの教育ニーズや学習状況に応じた個別最適な学びが可能となります。先生と生徒・児童とが双方向でコミュニケーションをとりやすくなるほか、生徒・児童が考えを互いにリアルタイムで共有したり、双方向で意見交換したりすることももっと容易になります。

 

こうして一斉学習における学びが「深化」すると同時に、個別学習や協働学習における「学びの転換」が期待できます。具体的には、課題や目的に応じてインターネットなどから情報を主体的に収集・整理・分析する「調べ学習」の充実や、文書作成ソフトを用いた長文の作成、デジタル編集ソフトなどを用いた写真・音声・動画の編集や作品の制作、プレゼンテーションソフトを用いた資料作成なども可能になります。子どもたち一人ひとりが考えをまとめて発表したり、共同編集によってリアルタイムに考えを共有しながら学び合うようなことも想定されます。

さらに、高速ネットワーク環境が整備されることで、小中学校と大学、海外、専門家との連携を進めやすくなるほか、 入院中の子どもなど教室に行くことができない児童生徒の学びの機会を保障しやすくなります。また、海外の子どもとつながり、英語で交流・議論したり情報発信したりする機会を生み出すことも可能となります。子どもたちが多様な情報やICTを活用することで、これからの時代には欠かせない情報リテラシーを学ぶ機会も増えます。

教育の現場で業務負荷が高まっている現状においても、メリットが期待できます。児童・生徒の成績の管理や集計、先生同士の情報共有などをデジタル化することで、先生は業務を効率化できるようになります。結果的に授業の準備に割く時間の確保や授業の質の向上、児童・生徒とのコミュニケーションの向上も見込まれます。

 

このように「GIGAスクール構想」は、児童・生徒の教育のあり方を変えて質を高めるだけでなく、先生の業務負荷を減らす側面でも期待が高まっています。

GIGAスクール構想の現状と今後

こうした多くの効果を期待して推進されている「GIGAスクール構想」は、現時点でどこまで進捗しているのでしょうか。

文部科学省の2022年3月末時点での調査によると、小中学校(義務教育段階)における1人1台の端末の整備は、全自治体の98.5%で完了しています。つまり、児童・生徒に1人1台のコンピューターと高速ネットワーク環境を整備するという「GIGAスクール構想」のハードウェア面での目標は、ほぼ達成できていると言っていいでしょう。

現在、学校は「GIGAスクール構想」の目標達成を踏まえ、ICTを用いた新たな教育を実践する「アフターGIGA」と呼ばれる段階に進もうとしています。そのためには、先生をはじめとする教育現場全体のITリテラシーが高まり、整備されたICT環境と教育現場が培ってきた知見が融合されて、デジタルネイティブ世代の児童・生徒に新しい学びを与えていくことが重要です。

加えて、教育現場におけるICT化を発展させていくための体制を整備していくことも、重要な取り組みとして挙げられています。導入したシステムの利活用や通信環境の整備など、先生にだけ負担がかからないように、外部からサポートスタッフを採用したり、地域でICTの指導人材を育成することも、その一つです。

上記してきたように、「アフターGIGA」段階の学校現場には、新しい取り組みが求められます。GIGAスクール構想はインフラを整備して「完了」ではなく、今後の実践段階が「本番」なのです。

 

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