【教育従事者必読】経済産業省「未来の教室」を徹底解説!

2022年12月19日

未来の教室とは? 

変化のスピードが、日に日に早くなっている現代社会。今の中高生が大人になるころの社会がどうなっているのかを予測することは、非常に難しくなっています。

そのような時代背景から、経済産業省は、これからの日本を支える子ども達が、未来を生き抜く力を身につけられる新しい学習環境を構築するため、2018年1月に有識者会議「未来の教室とEdTech研究会」(座長:森田朗・津田塾大学教授)を立ち上げました。

 

 EdTechとは、教育〈Education〉とテクノロジー〈Technology〉をかけ合わせた造語で、テクノロジーを使って教育を支援するシステムやサービスをさしています。この有識者会議において、テクノロジーを活用した新しい教育をどのように構築していくかが1年半にわたって議論され、2019年6月にまとめられた第2次提言が「「未来の教室」ビジョン」です。

 

「未来の教室」ビジョンでは、課題を自ら発見し、時に他者と協働しながらその課題を解決する能力が現代社会では求められていると提言されています。加えて、そのような力が教育の場で獲得されるよう、「未来の教室」実現のための3つの柱として、①「学びのSTEAM化」、②「学びの自立化・個別最適化」、③「新しい学習基盤づくり」の必要性も発信されています。現在は、3つの柱に基づき、各地の学校で実証事業が進められている段階となっています。

未来の教室 3つの柱

では、この3つの柱とは具体的にどのようなものなのでしょうか。1つずつ見ていきましょう。

学びのSTEAM化

STEAMとは、「Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・ものづくり)、Art(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)」という5つの単語の頭文字から取った言葉です。

変化の激しい現代社会で生まれる課題はより多様化しており、STEAMに代表される領域の専門知識はもちろん、文系・理系といった枠組みを越えた課題発見・解決能力が求められるようになってきています。「未来の教室」ビジョンが目指す「学びのSTEAM化」とは、教科学習や総合的な学習、探究・プロジェクト型学習(PBL)、特別活動などを通して、子ども達「一人ひとりのワクワクする感覚を呼び覚まし、教科知識や専門知識を習得すること(=「知る」)と、探究・プロジェクト型学習(PBL)の中で知識に横串を刺し、創造的・論理的に思考し、未知の課題やその解決策を見出すこと(=「創る」)が循環する学びを実現する」(経済産業省「未来の教室」とEdTech研究会 第2次提言・「未来の教室」ビジョンより抜粋)ことです。

学びの自立化・個別最適化

子ども達は一人ひとり、個性や特徴、興味関心、学習到達度に違いがあるということを前提として、それぞれに最適で自立的な学習機会を提供していくことが「学びの自立化・個別最適化」です。これまでの一律・一斉・一方向授業から、EdTechを活用した自学自習や子ども達同士の学び合いなど、一人ひとりが学び方を選べる学びへと軸足を移すことで、個別最適な学びによって能動的に学習を進めることができる(学びの自立化)ようになることが目指されています。

学びの自立化・個別最適化の大切さについて、経済産業省・教育産業室の浅野大介室長は、 「未来の教室」ビジョンとは? ~ビジョンに込めた想いについて委員が語る~ の中で、「例えば発達障害をお持ちのお子さんや、特異な能力を持たれているギフテッド、それが両方とも重なり合っている人たちなど、周りの人たちと相当違う特性を持っている人たちが伸びやかに自己実現できるかどうか、そのために最適化された教育機会を用意できるかどうか、そして、それができれば、じつはすべての子ども達に対しても同じことができるのではないか。それがEdTech、デジタル技術の活用によって、十分にできるのではないか、ということが研究会の中で盛んに話されており、自立化した、個別最適化された学びというものはそれほどに重要なのだと気づかされた」と話しています。

新しい学習基盤づくり

「新しい学習基盤づくり」とは、上記のような教育を実現するために、新しいインフラを整えていくことです。EdTechを活用し、個別最適化された学びを実現するためには、子ども達一人に一台のパソコンが与えられ、高速大容量通信に耐えうるインターネット環境が整備されていることが欠かせません。また、そうしたインフラ整備だけにとどまらず、多忙な教育現場の業務負担を軽減し、先生方が創造的に働けるように環境を整えていくことも掲げられています。

未来の教室 9の課題とアクション

 「未来の教室」ビジョンでは、この3つの柱を実現するために、乗り越えるべき9つの課題と、その解決のための9つのアクションを提言しています。この課題やアクションは、これまでに経済産業省が進めてきた「未来の教室」実証実験や、研究会で取り上げられた先進事例をもとに作成されています。
(参考)未来の教室って何

学びのSTEAM化を実現するための3つの課題

課 題 アクション
課題1-1:STEAM学習プログラム・授業編成モデル・評価手法の不足

・子ども達の興味関心は多様です。そんな子ども達一人ひとりの知的好奇心を喚起し、学習意欲を高めるようなSTEAM学習プログラムが不足しており、そうしたプログラムを用いた授業編成のモデルや評価手法も確立されていません。

アクション1-1:インターネット上に「STEAMライブラリー」、地域に「STEAM学習センター」を構築

・さまざまなテーマを題材にした質の高いSTEAM学習コンテンツがインターネット上でいつでも閲覧でき、時には同じコンテンツを活用する子ども達が学校の垣根を越えて協働的な学びを行ったり、コンテンツの改良に参加したりすることもできるオンラインの「STEAMライブラリー」を構築します。生徒が学ぶために利用するのはもちろん、先生方のために、学習内容や授業指導のモデルプランなども用意されます。一方で、インターネット上だけではなく、高校の農業科や工業科などの専門学科の施設やプログラムを「STEAM学習センター」として、地域の子ども達が実際に手を動かしてモノづくりなどに携わる機会を創出することも構想されています。

課題1-2:学校現場は知識のインプットで手一杯であり、探究・プロジェクト型学習(PBL)を行う余裕がないこと

・これまでの一律・一斉・一方向型の授業形式では、子ども達に知識をインプットすることで手一杯で、先生方に「学びのSTEAM化」に不可欠な探究・プロジェクト型学習に割く充分な時間がありません。

アクション1-2:知識はEdTechで学んで効率的に獲得し、探究・プロジェクト型学習(PBL)に没頭する時間を捻出

・探究・プロジェクト型学習にしっかりと時間と手間をかけるために、EdTechを活用して、効率的に知識を身につけられるようにします。その実現に向け、現在、AI型ドリル教材や、個別学習用EdTech教材を活用したさまざまな実証事業を経済産業省が行っています。

課題1-3:他者との協働の基礎となる情動対処やコミュニケ―ションが難しい子どもも少なくないこと

・探究型やプロジェクト型の学習をうまく行っていくためには、他者と協働することが欠かせません。そのためには感情のコントロールやコミュニケーション能力などの基礎力が必要になりますが、この基礎力についてのトレーニングが必要な生徒が少なくありません。

アクション1-3:幼児期から学齢期にかけての基礎的なライフスキルや思考法の育成

・基礎的なライフスキルや探究に必要な思考法が、4歳から5歳の間に最も成長するという研究結果があることに着目し、この幼児期から学齢期にかけての期間に、育成に取り組むべき基礎的なライフスキルや思考法が何なのか、そして、その育成方法を個別かつ最適に選択できる方法としてどんなことが考えられるのか、検討が進められています。

学びの自立化・個別最適化を実現するための3つの課題

課 題 アクション
課題2-1:一律・一斉・一方向型授業の神話

・AIやデータを教育現場にもうまく活用し、個別指導などにEdTechを導入してより効率的な学習効果を追求する学習塾も出てきている中で、「未来の教室」ビジョンは「学校現場では、一律・一斉・一方向型の授業の成功体験が神話のように根強く残り、それが強い慣性として働いている」とし、それが学校現場での個別最適化された効果的な学び方を追求することを難しくしているのではと考えています。

アクション2-1:知識の習得は、一律・一斉・一方向授業から「EdTechによる自学自習と学び合い」へと重心を移行

・学校現場において、基礎的な知識についてはEdTechを活用し、自学自習したり、疑問が出れば生徒同士で学び合ったり、先生に質問することで解消するという学びの形に変えていくべきだと提言しています。実証事業では、算数・数学・英語の教科で、一律・一斉・一方向型の授業からEdTechを用いた自学自習、学び合い主体の授業に転換したところ、テストの成績や学習意欲が向上し、授業時間も圧縮されるといった効果が見られました。また、その効果は子ども達に留まらず、先生方が発展的・探究的な学習を提供したり、個別の質問に回答したりと、子ども達にいっそう寄り添う時間を作ることもできたということです。

課題2-2:一人ひとりの学習者の個性(認知特性や理解度や興味関心)への細やかな対応の不足

・現在の学校現場では、子ども達が一律・一斉・一方向型の授業を軸に学ぶ環境は整っていても、一人ひとりに個別最適化された形で学ぶ環境は整っていません。「そもそも、幼少期から全ての子ども達の認知特性(たとえば短期記憶や長期記憶、見る、書く、聞く等の方法についての一人ひとりの得意・不得意など)や発達状況や日々の学習記録が、カルテのように蓄積されて」(経済産業省「未来の教室」とEdTech研究会 第2次提言・「未来の教室」ビジョンより抜粋)いないことが課題です。

アクション2-2:幼児期から「個別学習計画」を策定し、蓄積した「学習ログ」をもとに修正し続けるサイクルを構築

・この課題を解消するために、幼児期から学校や民間教育の現場での学習・課外活動の成果を蓄積し、生徒・保護者が先生や専門家などからサポートを受けつつ「個別学習計画」を作り、つねに更新しながら学び続けることで、生徒個々の個性に寄り添った学習環境を提供することが目指されています。例えば、発達障害や特異な才能を持つギフテッド、その両方を併せ持つ子ども達に適した学習環境は、当然ながらそれぞれ異なります。諸外国と比べた時に、日本はこうした子ども達の才能を伸ばす学習環境が十分とは言えません。そうした観点からも、上記のような一人ひとりの幼児期からの「学習ログ」の蓄積をもとにしたサイクル構築が目指されています。

課題2-3:授業時数・学年・居場所の制約(履修主義・学年制・標準授業時数、狭い「対面」の考え方)

・EdTechの登場で、子ども達一人ひとりが個別最適化された学びを進めることは技術的には容易になりました。その一方で、同じ学年の子ども達が同じ教室で同じ時間に標準的な授業時数を履修することが前提の現在の制度は、それを制約することになりかねません。また、現代社会では高速大容量通信とインターネットによって、リアルな対面と変わらない質のコミュニケーションが可能になってきましたが、そうした社会に子ども達を送り出すはずの学校現場においては、同じ空間にいることにこだわった狭い意味での対面授業に重きが置かれています。

アクション2-3:多様な学び方の保障(到達度主義の導入、個別学習計画の認定、ネット・リアル融合の学び方の導入)

・学びの自立化・個別最適化の実現に向け、「未来の教室」ビジョンでは「標準授業時数の考え方を整理し、より短い時間で高い世界を上げることを評価し許容する、明確な指針を、政府として学校現場に対して示すべき」と提言。また、決められた時数の授業への出席が重要視される「履修主義」ではなく「到達度主義」(理解度・到達度を客観的に測定)による評価や、学習指導要領の縛りにとらわれない個別最適化された学習計画の策定、ネットとリアルを融合した「対面」授業など、 EdTechも活用しながら、子ども達がより柔軟で多様な学び方ができるような環境づくりが目指されています。

「新しい学習基盤づくり」を実現するための3つの課題

課 題 アクション
課題3-1:EdTechを活用するには、学校ICTインフラがあまりに貧弱なこと

・EdTechを十分に活用し、学びの形を変えるためにはパソコンを新しい文房具とみなし、一人一台、つねに利用できる環境の整備が必要です。GIGAスクール構想により、小・中学校には子ども一人に一台のパソコン環境が整ってきましたが、高校はその限りではなく、また、インターネット環境やICT機器の調達にも課題があります。

アクション3-1:ICT環境整備(1人1台パソコン・高速大容量通信・クラウド接続の実現、調達改革・BYOD・寄付)※一部は『GIGAスクール構想』として進行中

・学びのSTEAM化や、自立化・個別最適化のためには一人一台のパソコン環境は必須と考え、GIGAスクール構想を軸として、ICT環境の整備をさらに進めようとしています。

課題3-2:教師も子ども達も手一杯で、創造性を発揮する余裕がないこと

・「未来の教室」を実現して子ども達の学び方改革推進のためにも、先生方の働き方改革を積極的に進め、学校全体に余裕を持たせることが必須ですが、こうした取り組みはなかなか進まないのが現状です。

アクション3-2:学校BPR(業務構造の抜本的改革)の試行・普及、部活動に縛られない放課後の充実

・企業の業務改善に用いられるBPRという手法を用いて学校の業務を根本的に見直し、さまざまな事務作業のデジタル化を進めたり、先生方に過度な負担がかからないような部活動のあり方を検討することで時間を捻出することが狙いです。部活動においては同時に、子ども達が参加を強制されることなく、「一人ひとりが自由に、自身の学び方や過ごし方を選択できる新しい放課後のあり方を創出すべき」とも「未来の教室」ビジョンでは提言されています。

課題3-3:教師が学び続け、外部人材と協働する環境の不足

・教育改革に取り組む先生方を孤立させないために、先生同士はもとより、学校外の人材を交えて学び合う環境が不足していること、「学びのSTEAM化」に欠かせない、社会課題の解決や未来社会の構築に向けて、企業や大学の先端研究などに子ども達が触れる機会が不足していることが課題となっています。

アクション3-3:教師自身がチェンジ・メイカーとして、学校外の人材と学び協働し続ける環境づくり

・「学びのSTEAM化」や「学びの自立化・個別最適化」の実現には、先生も学校環境改善を進める「チェンジ・メイカー」や、自ら研究を続ける「アクティブラーナー」、子ども達のアクティブ・ラーニングをサポートする「ファシリーテーター」であることが求められます。こうした「新しい専門性」を身につけ、磨いていくための環境づくりや、教員養成課程・教職課程における新たなプログラムづくりが目指されています。

「未来の教室」に欠かせない学校DX推進に役立つ情報

上記の課題を解決するうえでも欠かせないのが「学校DX」の推進です。DXとは「Digital Transformation」の略で、デジタル技術を用いた変革のことをさします。学校DXとは、デジタル技術を活用することで学校教育の内容や先生の働き方など、あらゆる面での変革を行うこと、と言えます。 

その学校DXを現在教育現場で推進している先生に役立つのが、「未来の教室」実証事業掲載ページです。

2022年12月2日現在で登録されている実証事業数は「126」。一覧、条件、フリーワードから検索できます。就学前から小・中・高、さらにはリカレント(学び直し)までが対象で、カテゴリーも学校BPR、部活動改革、探究・STEAM、教員研修など多岐にわたって事例が紹介されています。

最後に

以上、「未来の教室」について、実際に進んでいる実証事業の成果も踏まえて出されている課題やアクションも含めてご紹介しました。これまでの学校教育のあり方から大きく転換するような内容も多いことがわかります。 

これから発展していく部分もありますが、実証事業は現在も進められており、今後どのように展開していくのか、引き続き要注目です。

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